理事長メッセージ

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そのスタート

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私は歯科医師の三代目です。子供時代に見ていた開業医の父の姿が現在の私に大きな影響を与えています。

とにかく当時の父は歯科医師としての仕事が忙しく、家にもあまり帰ってこれない位だったんです。

高度成長時代から歯科医師として生きてきた父は当時相当の収入があったと思うんですが、子供の私から見ても「お金に使われている、人に使われている、目先の事で手一杯」な感じがしていました。これは自分が成長してから他の歯科医院を見た時にも感じた事で、お金が入ってきても楽しさや達成感みたいなものが見えてこなかったんです。

でも、家業だから仕方ない、せめて歯科大だけでも進もう、でも町医者にはならず私は別な道を、具体的には世界に羽ばたけるような科学者、研究者になろうと思っていました。

ところが、研究者というのは世界中の70億人を相手にして勝たなくてはいけない。大学院生活で「世の中には上には上がいる」という事実をまざまざと見せつけられました。グローバルな仕事は自分に合っているのか大変悩みました。

そんな折、偶然アルバイトをさせていただいていた歯科医院が衛生士と歯科医師が協力して治療にあたるスタイルをとっていました。そんな中で得られたのが、寄り添い、手を添える事で目の前の患者さんに感謝してもらえる診療だったのです。具体的には、外で一緒に食事をさせて頂く、プレゼントを頂く、面と向かって深々と感謝される、等の患者様とのローカルなコミュニケーションでしょうか。

グローバルな世界に出ていこうと思っていた私ですが、このローカルな感覚がとても新鮮に感じ、地域医療に身を投じようと思ったのです。

原点へのアプローチと挫折

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しかし、やがて勤務医生活をスタートさせた私は理想と現実の落差に自分を見失ってしまいます。

新しい勤め先の医院はいわゆるオフィス街の診療所。毎日が忙しく、寄り添ったり、手を添えたりなんて夢のまた夢です。ここでの診療スタイルは歯科医師の強力なリーダーシップのもと「上意下達」していくスタイルでした。

今となってはワンマン経営も必要と必要悪を認められるようになりましたが、社会貢献などと甘い夢を見ていたこの頃の私にはこの現実を受け入れられませんでした。

「僕の意見も聞いてください」「患者さんが望んでいることはこんなことなんでしょうか」今から考えれば底の浅い考えです。若さゆえか、反発し医院で仕事ができる状況ではなくなっていきました。

「報酬を頂くが為の窮屈さ」「雇用される側の苦しい立場」をイヤというほど痛感した私でしたが、それでも理想を捨て去る事はできなかったのです。

結果、ご縁があった就職先ですが、辞職をさせていただきました。

「どのようにしたら、患者さんとのコミュニケーションを大事にして、自分を含めた勤める人がお金に使われないか、人に使われないか、目先の事で手一杯でない診療ができるか」を考えて、考え抜いて作ったのかこの五條歯科医院になります。

歯科医師の賞味期限

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とはいっても、「開業したのだから歯科医師として一生治療に関われるか」と言ったらそうでないと思っています。

私は、歯科医師、衛生士の賞味期限は30年と思っています。というのも大学を卒業し、人前で恥ずかしくない診療ができるようになるのに約5年から10年。その後約30年働くとして、そのころには60歳半ば。老眼も進み、もしかしたら体にもガタがきているかもしれません。若い世代には老害と言われるかもしれないし、自分の技術を他のスタッフに伝える年齢になっていることでしょう。

また、歯科医師、衛生士に欠けているのは「鳥の目を持つ」「物事を俯瞰してみる」ことです。マイクロスコープを通して見えているのは歯の一部ですが、そこに集中するのが仕事です。体全体、心の中、患者の家族、一緒に働く人、医院全体を見ることは不得意です。「細部を見る」、「虫の目を持つ」ことが社会的にも望まれているのですがそれがあだとなる場面が多々あります。

一方で、人間の寿命は延びに伸び、80半ばまで来ています。結果、色々な人生を歩んできた人が増え価値や人生観はまちまちです。人生80年と考えるとその間の口腔の管理は歯科医師、衛生士一人で担うことができるでしょうか。単純計算でも、80年÷30年=2.7、少なくとも3世代が必要になります。

このことから、これからの地域にインフラとして必要とされる歯科医院は「100年続く」ことが要求されると私は信じています。

ここで重要なのが、経営感覚、将来展望を一緒に見据えることができる鳥の目を持った人材です。鳥の目を持つ人材が虫の目を持つ技術者の賞味期限を短くしたり、長くしたりします。虫の目を持たないといけない歯科医師、衛生士が安心して目に集中できる環境を整える事、それができる人材が「100年続く」歯科医院に必要なのです。

人と地域を育てる

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「100年続く」ためにも当然顧客のニーズに合った診療をし、顧客を逃がさないというのが経営の基本です。この地域は住民の健康志向が高く、予防や美しさにこだわる方が多い地域だと肌で感じています。

ですので、当面の目標の一つに、近隣対象で定期的に当院の予防歯科に来る患者様を獲得するシステムを5年以内でしっかり構築する事が挙げられます。5年後にはこのシステムを近隣人口の2/3で定着させたいと考えています。

医院のある釜利谷東と隣接する釜利谷、釜利谷西、釜利谷南を合わせた人口が2008年3月末のデータで約3万3千人、近隣地区全体を合わせると約5万人位になります。この内で医院の商圏だと多分1万人位で、2/3とすると約6千人を誘致する計算になってきます。

医院は金沢文庫駅からは徒歩20分と少し距離がありますが、立地としては比較的交通量の多い幹線道路に面しているのでがもう少し上積みがあるかも知れません。そのためにも必要なのが、これらの患者のニーズに応えられる能力のある技術者とそれを分析できるマーケッターです。技術者とマーケッターが協力することで、地域にメンテナンスを中心としたライフスタイルの提言ができると考えています。

ですので、五條歯科医院では新人教育に力を入れているつもりです。入ってきた新卒者が地域にライフスタイルを提言をできるように、技術教育、一般教養を含めたサポートをしています。たとえば、定期的に外部講師を交えた学会を主催したり、外部での発表をしたり。最近まで挨拶もできなかった新入社員が、目を輝かせて患者さんに話ができるまで、医院全体でフォローしています。常々、私がスタッフに話していることに「私たちが行っている事業は「歯科医業」ではなく、口腔の健康をベースに置いた、心身ともに豊かで楽しい生活の構築を地域の人々に植え付けて広げていく社会事業だ」というのがあります。スタッフが成長し、地域が発展して豊かになっていくことが私にとっての最高の喜びになっているのです。